ネクタイの美学、そして2027年という転換点

ビジネスマンの胸元で静かに存在感を放ってきたネクタイ。しかし今、その「役割」そのものが問い直されようとしております。パリ、ミラノの最新コレクションから見えてきた潮流と、世代ごとの美意識をひもといていきましょう。

CHAPTER 1|世代が語る、ネクタイという自己表現

20代 — 「攻めの細さ」で魅せる

新社会人からキャリア初期にかけての20代。剣先の細いナロータイを選ぶ人が目立つのは、若さゆえの機動力とスタイリッシュさを両立させたいという心理の表れだろう。ストライプ柄は鉄板でありながら、少し会社に慣れてきた頃合いには、より落ち着いた雰囲気を感じさせるデザインへとシフトするのも、この世代らしいグラデーションだ。ポール・スミスの遊び心あるカラーリングか、ラルフローレンの端正な伝統か——選ぶブランドがそのまま「今の自分」を語る年代でもある。

30代 — トレンドと洗練の交差点

責任あるポジションに就き始める30代は、ユナイテッドアローズのようなモダンな柄・色使いに惹かれる層が増える。ヴィヴィアン・ウエストウッドのようなアートな一本に手を伸ばすのも、この年代ならではの余裕だ。「トレンドを追いながらも、埋没しない」——そんな二律背反を楽しめるのが30代の特権と言える。

40代以上 — 削ぎ落とした先の品格

バーバリーに代表される英国テイストのクラシックなデザインが支持を集めるのが40代以降。もはや「攻める」ことより「削ぎ落とす」ことに美学を見出すステージへと移行していく。

CHAPTER 2|2027年、ネクタイは”脇役”を卒業する

さて、本題の2027年春夏トレンドである。パリ・ミラノコレクションの取材を通じて見えてきたのは、ネクタイという小物の存在意義そのものの変化だ。

これまでネクタイは、クラシックな装いやプレッピーなスタイルなど、着こなしの文脈やキャラクター性と強く結びついた小物として捉えられてきた。しかし2027年春夏コレクションでは、その固定観念から解き放たれ、アクセサリー感覚でスタイルに華やかさを添えるアイテムとして登場している。まるで、これまで「規律の象徴」だったネクタイが、突如としてジュエリーのような自由を手に入れたかのように。

太さが語る、二つの人格

興味深いのは、幅による印象の使い分けが明確に言語化され始めたことだ。やや細身のナロータイはスマートな印象を与える一方、太幅のワイドタイは野暮ったさを残しながらも、肩の力が抜けたリラックス感を演出するという。もはや「正しいネクタイの幅」という単一の正解は存在しない。その日の気分やムードで太さを選び分ける、そんな遊び方が2027年の作法になりそうだ。

“着崩しプレッピー”という逆説

ランウェイでは、テーラードジャケットにポロニットやネクタイを合わせながら、短丈のニットベストからあえてネクタイの剣先を覗かせたり、シャツのボタンを開けて肌を見せたりと、クラシックな装いを自由なバランスで再構築するスタイリングが目を引いた。優等生の制服だったはずのネクタイスタイルが、あえて「崩す」ことで新しい色気を纏う、このパラドックスこそ、2027年らしさの核心かもしれない。

アクセサリー全体との共鳴:同系色のタイドアップ回帰

アクセサリー全般のトレンドを見渡すと、クラシック回帰の流れを汲んだ同系色のタイドアップも再評価されている。奇抜さだけでなく、シャツとネクタイのトーンを揃える上品な一体感もまた、次シーズンのキーワードとして併走していくだろう。

CHAPTER 3|前哨戦としての2026年秋冬

この2027年の潮流は、突然変異ではない。2026年秋冬シーズンにはすでに「PLAYFUL TIE」というテーマで、ルールに縛られない自由なネクタイの着こなしが広がっていた。ナローからスカーフタイまでデザインのバリエーションは豊富で、スーツを端正に仕上げるためだけでなく、遊び心を添えるファッションアクセサリーとして取り入れるのが新しい流れとして紹介されている。つまり2027年は、この”解放”がさらに加速し、明確な文法として結実するシーズンなのだ。

EDITOR’S EYE|編集後記

ネクタイの歴史を振り返れば、それは常に「規律」の象徴だった。ビジネスの制服として、社会人としての礼儀として。しかし2027年、ネクタイは初めて**「自分を楽しませるための道具」へと解放されようとしている。

年代を問わず言えることはもう「正解のネクタイ」を探す時代は終わったということ。細さで遊び、色で語り、時に着崩す。あなたの胸元にあるのは、もはやルールではなく、あなた自身の存在に。

お問い合わせはこちら